喫茶 ボルガナ

そこは三条河原町の様な街。

ぼくは宿題を終わらせることが出来ずにいた。

陽の昇る前に起きて散歩をすれば高校に入っていく制服姿が少々目に入った。こんな時間から通学している人もいるのかと驚いたけれど、僕も放送部や生徒会で信じられない時間に呼び出されたり日が変わるまで働いていたりしたことを思い出した。

そういえば昨日は二回同じ温泉に行ったんじゃなかったか、或いは一度は現実で二度目は夢か、それともこれが夢であり、今から温泉へ向かうイメージの芽生がぼくにデジャヴを覚えさせているのか。

ここは恵比寿だったかもしれないし、神保町の様な店もあった。

例えば喫茶 ボルガナ。

こんな時間から開いている喫茶のコーヒーが美味いわけ無いのに、頭の中で聞こえた声。「ここへ来ない事はおかしい」

かつて何度も足を運んだ店だが、久々に帰ってきた街になにか用事のために滞在していて、ふと思い出した様な体裁が取られた風な思考だった。だとすればこれはデジャヴではなくジャメヴなのかもしれない。

入店したら話してはいけない店だった。一番奥のカウンターに座る。コーヒーを注文すると、夢だからかかなり美味しかった。パステルグリーンの軽い皿に丸く切ったカルメ焼きのようなパンが乗せられてコーヒーが飲み終わったら運ばれてきた。この店はやたら店員が話しかけてきた。どうでもいい話なのだが皆昔の知人だったから懐かしい話に苦しい相槌を打たなければならず、何度かマスターに注意されてはこの人達のせいで追い出されたく無い、という思いが募っていく。この人たちは店員だから煩くてもいいのか?と思った矢先マスターにお帰り願えますかという当然の申し出を食らって煩い店員は帰っていった。

カウンターは疲れたので真後ろにあった小さい一人用のソファに座ったならば隣に座ってきたのは別の知人。先程の煩い店員へのストレスが溜まっていたぼくはその知人と懐かしいような話をして、少し耳を澄ませ、静寂に協力した。もう朝になっている。少し離れた席に阿部寛が座っていて肉を頬張っていた。

知人が追い出されても静かに知らぬフリをし、自分だけは滞在している時間を少しでも長くしたい。それが店員だとしても容赦なく追い出して(店員なのに容赦なく煩いためだが)しまうこの喫茶店の名前は ボルガナだった。

メニューはドアの窓ガラスに記されてあるボルガナという屋号のしたにcoffee 400yen milk 400yenと書かれてあるだけだった。

 

起きてボルガナについて検索したけれど喫茶は見つからず以下の文章が見つかった。

 

「その頃、いまのイラン地方は、フビライの弟プラグ・ハンが治めていたが、その死後は孫のアルグン王がついでいた。
 ところが三年前に、アルグン王の妃ボルガナが亡くなった。
 ボルガナは、王妃として私のあとを継ぐ人は、自分の一族の人であってほしいと遺言した。
 そこでアルグン王はオウラタイ、アプスカ、コジャという三人の重臣を使者にえらび、はるばるフビライ・ハンのもとに、王妃をおくってほしいと申し込んできた。
 フビライ・ハンは使者たちを心良くむかえ、手厚くもてなして、ボルガナの一族からコカチンという十七歳の美しい姫をえらんだ。
 別にもう一人、マンジ王の姫もえらばれた。
 三人の使者はたいそう喜び、さっそく大勢のお供をしたがえて、イランに帰ることになった。」

 

ペルシアのタタール人のアルゴンの王妃らしい。